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薬の歴史
 
長崎薬学史の研究
 
ホーム薬の歴史長崎薬学史の研究第三章近代薬学の定着期>2.橋本宗吉と蘭科内外三法方典

第三章 近代薬学の定着期

2 橋本宗吉と蘭科内外三法方典
 日本薬局方編纂という大事業が日本国政府の指導のもとで進行するかたわら、民間の学者の中からも近代薬学に貢献する多くの先駆的な翻訳本の出版がなされていた。これらの書物のなかでも、橋本宗吉による「蘭科内外三法方典」は“近代的意義における薬品製造を最も早く記述し”、“最初に西洋医科学を体系的に我が国に紹介した”紹介書として高い評価を得ている。
 本書はオランダ都市薬局方の一つであるロッテルダム局方(Pharmacopoea Roterodamensis III〈Galeno-chymica〉、1735)の第3版に準拠して編纂された医家用の書物の翻訳であり、初版本は文化2年(1805)に刊行されている。この蘭科内外三法方典という書名について、宗吉は「此書題シテ三法ト謂モノハ製薬、処方、治療ノ三法ナリ。方典トハ効験古今ニ称著ナルヲ肆ニスルノ謂ナリ。即(チ)原書標名スル所ノ義ヲ訳ス。」と記している。すなわち、三法とは製薬・処方・治療を意味している。
 本書は本草部(巻之一上・下)、薬方部(巻之二)、製薬部(巻の三)を含み、最終的には6冊揃本のかたちをとって販売されたと考えられている。本書と原書を比較した場合、巻之六が部分訳であることを除いて構成および内容はよく一致し、大体において逐語訳がなされている。しかし、その訳に関しては、初めての化学用語を創造するための苦心の跡が見てとれる。例えば、書名のScheikonst(ラテン語、 Chemia)は本書において「製薬」と訳されており、製薬に必要な技術(化学)には「諸薬鎔鑠変化之法」(巻之三、製薬部)という難解な用語があてられている。また、原書にはない化学器具の図を数10品「製薬器物図」として巻之二の末尾に補うなどの工夫もなされている。
 なお、オランダ都市薬局方はロッテルダム局方以外にもアムステルダム、ライデン、バタビアの系統があり、これらは宇田川榛斎、緒方洪庵らによって翻訳されている。 橋本宗吉は上方蘭学グループの中心人物として活躍したが、その蘭学の基礎は江戸の大槻玄沢の芝蘭堂塾で身につけた。ちなみに、彼は日本の電気学の祖としても知られており、エレキテル装置なども手掛けた。「西洋医事集成宝凾」、「阿蘭陀始制エレキテル究理原」、「エレキテル訳説」などを著し、医書、天文、地理に関する書物の翻訳を通して欧米諸国の情報提供に努めた。
   
長崎大学