HOME Research of History of Nagasaki Pharmacology
CONTENTS
CONTENTS
薬の歴史
 
長崎薬学史の研究
 
ホーム薬の歴史長崎薬学史の研究第一章近代薬学の到来期>オランダ船がもたらしたもの

オランダ船がもたらしたもの
(オランダ貿易の薬と植物)

 18世紀におけるオランダとの貿易で、日本は主に銀や銅、樟脳などを輸出し、下の表に示すようなものを輸入していた。17世紀に比べると薬品・香料類の輸入に占める割合は高くなっているが、この時期のオランダ船が運んだ薬品はほとんどアジアで調達された漢薬などアジアの薬物で、西洋の医薬品が庶民のものとなるのは19世紀になってからである。それまでの輸入洋薬は将軍が特注した品など限られたものであった(長崎市出島史料館)。

1707年の輸入品目(総輸入727,204グルデン)
生 糸 28.3%
綿織物 20.7%
絹織物 15.3%
砂 糖 15.7%
皮 革 8.6%
染料・香料・薬物 7.9%
その他の繊維 0.4%
金 属 0.3%
象牙、水牛、牛の角、鼈甲 0.3%

日本になじみの植物もオランダ船によって運ばれて来た。
オランダ船がもたらした植物(出島史料館)


植物名 原 産
カラー 南アフリカ
ヒマワリ 北アメリカ
シロツメクサ ヨーロッパ
ゼニアオイ ヨーロッパ
キズイセン ヨーロッパ
ノーゼンハレン(キンレンカ) ペルー
ウチワサボテン メキシコ
アスパラガス 南ヨーロッパ
ダリア メキシコ
マリーゴールド メキシコ
オジギソウ ブラジル
オシロイバナ メキシコ
キクニガナ(チコリ) 南ヨーロッパ
ウコン 南アジア
ストック 地中海沿岸
オランダミツバ(セロリ) ヨーロッパ
オランダゼリ(パセリ) ヨーロッパ
ココヤシ 不詳
トマト 南アメリカ
パイナップル 熱帯アメリカ
オランダイチゴ(イチゴ) アメリカ
キャベツ ヨーロッパ
ジャガタライモ(ジャガイモ) 南アメリカ


輸入西洋薬の記録された台帳
輸入西洋薬の記録された台帳
(ヤラッパ、マンナ、マグネシア、テリヤアカ、テレメンティナなどの字が見える)
長崎貿易商永見屋の入札帳(天保7年[1836年]−文久2年[1862年])
長崎県立長崎図書館蔵「オランダ渡りのお薬展」より


バタビアからの薬物の輸送品リスト
時代は不詳であるが1820年に単離されたキニーネが薬品として記載されていることから、江戸末期と思われる。リスト(筆記ラテン語)の中から文字が判読可能なものは以下の通り。
センナ葉:マメ科センナの葉。下剤。有効成分:センノシド
硫酸ナトリウム:化学薬品。下剤
塩化アンモニウム:化学薬品。下痢止め。去痰
酸化マグネシウム:化学薬品。制酸剤
アラビアゴム:アラビアゴムノキの樹脂。消化器の炎症を緩和。製剤原料
大黄粉末:タデ科ダイオウの根茎。下剤。有効成分:センノシド、タンニンなど
ヒマシ油:トウダイグサ科ヒマの種子油。下剤。有効成分:リシノレイン酸
バルサムコパイバ:コパイバの樹脂。去痰薬
硫酸マグネシウム:化学薬品。下剤   
シナ花:キク科ヨモギ属植物の蕾。回虫駆除薬。有効成分:サントニン
重炭酸ナトリウム:化学薬品。制酸剤
ニガヨモギチンキ:南ヨーロッパ産ヨモギ属植物のアルコールエキス。興奮剤,胃薬,駆虫薬
硝酸:化学薬品。赤降汞・酸化第二水銀を作るのに用いた。
ミンデレル精:酢と鹿角エキスから作った酢酸アンモニウム液。発汗剤  
ホフマン鎮痛液:化学薬品。アルコールとエーテルの混液。鎮痛薬
硫黄華:化学薬品。粉末硫黄。皮膚病に外用     
ヤラッパ根粉末:メキシコ産ヒルガオ科植物ヤラッパの根の粉末。下剤。成分:樹脂配糖体
アロエエキス:アロエの葉のエキス。下剤。成分:バルバロイン
ホウ砂:化学薬品。アルカリ塩を多く含む鉱物。胃薬・利尿・目薬に用いられた。
水酸化鉄:化学薬品。用途不明
硫酸キニーネ:1820年南米アカネ科植物キナから分離されたアルカロイド。植物由来の化学薬品。解熱剤・マラリアの薬。江戸末期、ポンペは長崎においてコレラの治療にも用いた。
ヒヨシアムスエキス:ナス科ヒヨスから作ったエキス。鎮静・催睡・瞳孔散大薬、有効成分:ヒヨシアミン
ヤラッパ脂:メキシコ産ヒルガオ科植物ヤラッパの根から得た樹脂。下剤。成分:樹脂配糖体
グアヤク脂:ハマビシ科ユソウボクの樹脂。ユソウボクは梅毒に用いられた。
ベラドンナエキス:ナス科ベラドンナの根のエキス。鎮静・催睡・瞳孔散大薬。有効成分:アトロピンなど
塩化バリウム:化学薬品。塩酸重土。腺の閉塞に用いられた。また,点眼液にも使用。
鹿角精:鹿の角のエキス。中枢神経覚醒・鎮静。鹿角塩は炭酸アンモニウム
トコン末:南米産アカネ科植物の根の粉末。催吐剤。有効成分:エメチン
ヨードカリ:化学薬品。去痰薬。ヨウ素補給薬
ジギタリス末:ゴマノハグサ科ジギタリスの葉の粉末。強心・利尿・鎮静薬。有効成分:強心配糖体ジギトキシンなど
アヘンチンキ:ケシ科ケシの果実から得られる乳液のアルコールエキス。鎮痛薬。有効成分:モルヒネ、コデインなど
テレビンチナ樹脂:松脂,テレビン油をとる
吐酒石:化学薬品。酒石酸カリウム・アンチモン。催吐剤     
硫酸アンチモン:化学薬品。用途不明
赤降汞:酸化第二水銀 化学薬品。水銀剤。梅毒に用いられた。
亜鉛華:化学薬品。外用薬・皮膚の保護
アヘン末:ケシ科ケシの果実から得られる乳液を固めて粉末にしたもの。鎮痛有効成分:モルヒネ、コデインなど
辰砂:硫化水銀、化学薬品。水銀剤。梅毒に用いられた。
次硝酸ビスマス:化学薬品。消化管内の炎症に用いられた。
カロメル:化学薬品。塩化第一水銀。水銀剤。梅毒に用いられた。
カストレウム:ビーバーの鼠けい部の腺からの分泌物。覚醒作用
水銀軟膏:化学薬品。悪性の皮膚病,梅毒に外用された        
消化軟膏:不明
   
長崎大学