大学院臨床薬学専攻の設置に向けて

長崎大学薬学部長 芳 本  忠

 長薬同窓会会員の皆様には益々ご健勝のことと存じます。
 今年の夏は異常気象で,各地で大雨や台風の被害の報道が続きましたが,被害はございませんでしょうか。長崎は逆に雨が少なく暑い夏となりましたが,秋雨前線に台風が接近し水不足の心配は無くなったようです。この一年間,薬学部挙げて新しい大学院の設置に向け取組んでまいりましたことを中心に報告いたします。

1.臨床薬学専攻の申請経過
 
薬害事故が続いたことから薬剤師の資質の向上が求められ,諸外国と同様に薬学教育を6年制にすることが厚生省側より強く求められてきました。しかし,日本の伝統とも言える創薬重視の薬学教育によりこれまで製薬業界に多くの優れた人材を輩出し,薬学出身者によって多くの薬が生み出され医療に貢献して来たことも事実です。そのため,一挙に6年制に変え全員に病棟での実務実習を課すような薬剤師教育重視の方向になかなか踏み出せないのが現状です。文部省の諮問機関から,大学院修士課程では「非臨床系薬学」と「臨床系薬学」の2つに大別して専門教育を行うことが提言され,各薬系大学院に新たに臨床薬学教育の大学院を作る方向にあります。
 長崎大学薬学部としてもこの流れに乗るため,昨年より臨床薬学専攻設置準備委員会を作り検討を重ね,本年より文部省へ申請を行っております。その内容は次の図のようになります。

長崎大学大学院薬学研究科

専攻名

課程
定員

講 座 名(研究室名)
薬科学
(既設)

前期
24名

後期
6名

医療薬剤学(細胞制御,薬剤学,分子病態,分子薬理)
医薬品設計学(薬化学,薬品製造化学,医薬品合成化学,機能性分子化学)
保健衛生薬学(衛生化学,医療情報・分析学,放射線生命科学)
医薬品資源学(生薬学,薬品生物工学,薬用植物園)
臨床薬学
(新設)

前期
16名

後期
7名

基幹講座 薬物治療学
医療情報解析学
協力講座 薬剤学(薬科学専攻)
治療薬剤学(病院薬剤部)
臨床薬学(保健管理センター)
感染症予防治療学(熱帯医学研究所内科)

(前期は修士課程,後期は博士課程を示します)

 臨床薬学専攻には薬物治療学と医療情報解析学講座を新設し,教授2名,助教授2名の増員となります。この2講座が基幹講座として中心的な役割をし,講義や実習を助ける役割として4つの協力講座を配置します。協力講座として既存の医療薬剤学講座から薬剤学教室,学部外協力として附属病院薬剤部,保健管理センターと熱帯医学研究所の内科部門が加わった構成です。
 この臨床薬学専攻の特色として,6か月の実務実習が行われます。附属病院薬剤部において調剤業務,病棟において服薬指導や薬歴管理を主体とした薬剤管理業務実習,および保健調剤薬局での通常業務実習とともに在宅ケアを含む地域医療を中心とした実務実習が組まれています。これら臨床教育が十分行えるよう薬物治療学講座の教授に医師,特に内科医をあてることを計画しています。また,卒後教育のための社会人特別選抜も考えています。
 幸いにも文部省の段階で設置が認められ,現在,総務庁へ向けた増員理由書の作成に追われています。不景気で人員削減の気運の中ですが,4名の増員要求を是非とも通したく,これからの折衝が正念場です。ここまで来れましたのも,学部教官全員の協力によるものがあります。また,市川附属病院薬剤部長,斉藤附属病院長と池田医学部長には臨床薬学設置への全面的な支援をいただき,附属病院からの協力体制を得ていることが最大の力となっています。10月10日をもって横山学長退任のあと,池田医学部長が学長として就任され,薬学部への一層のご理解とご援助をいただけるものと確信しています。さらに,高木県薬剤師会会長には保健調剤薬局実習面で一方ならずご配慮いただいております。12月末の大蔵省の予算案折衝が最後の難関となり,同窓会の皆様に新年の良き報告ができるよう祈る気持ちでいます。

2.国際学術交流
 中国薬科大学との交流は11年目を迎え,更新年に当たり,更に学術交流を高めるため学部間交流から大学間交流に改めることにいたしました。10月30日,中国薬科大学の呉学長と厳元副学長らを迎え池田学長との調印式を行い,柏葉会館で歓迎懇親会を行いました。大学間交流にすることにより,交換学生の単位の互換や授業料免除が行え,新たな交流の道が開けると期待しています。
 2000年は日蘭友好400周年に当たり,色々な催しが計画されています。その先駆けと言えるシーボルト記念館での特別展「オランダ渡りのお薬展〜甦るシーボルトの処方箋〜」が9月24日から2か月の期間開催され,薬学部が協力いたしました。その中で,シーボルトの時代の医薬品の輸入医薬品の解説や,シーボルトの処方箋に従い調剤し好評を得ました。また,シーボルトゆかりのライデン大学と大学間学術交流協定が結ばれたのを機会に,薬学部は同大学の薬研究所(LACDR)と交流すると共に,医学部と共催で国際シンポジウムや市立博物館での「近代医学薬学に貢献したオランダ展」を計画しています。さらに,これを機会に幕末を中心にした長崎の薬学史をまとめる計画を立てています。


3.学部の動向
 機能性分子化学(旧物理化学)に甲斐雅亮教授,附属薬用植物園に山本浩文助教授が就任いたしました。医薬品合成化学教室の木下助教授が退官の後に尾野村治助教授が就任いたしています。また,松村功啓教授は九州大学へ流動研究員として2年間の期限付で転出しています。
 ここ数年,薬学部の文部省科学研究費の教官当たり取得数が大学内で1番高く,多くの論文が出され,研究面で比較的高い水準にあると思っております。一方,薬剤師の国家試験の合格は全国国公立大学第3位と高く薬剤師教育でも満足な結果を得ております。上述の大学院臨床薬学専攻ができれば,さらに創薬と薬剤師のバランスのとれた教育研究ができるものと期待しております。
 どうか,同窓会会員の皆様には変わらぬご支援を賜りますよう,学部を代表しお願い申し上げます。

前の記事 目次 次の記事