長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
天然物化学研究室

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紅茶ポリフェノール成分について


 ワサビはすりおろして初めて辛くなります。ニンニクやタマネギも傷つけられると臭いや催涙成分を生成します。その時生成した物質は抗菌作用が強く,これらの現象は植物が自分の身体を守るために持っている仕組みと考えられています。
お茶でも同じことが起こります。新鮮な茶葉をすぐに加熱処理すると成分はほとんど変化しませんが(緑茶の製造),新鮮な時に傷つけ,細胞を破壊すると,茶葉のポリフェノールが酵素によって酸化され(紅茶製造)抗菌性の強い色素(紅茶色素テアフラビン)が出来ます。しかし,その時の化学変化については,まだよく分っていない事が多く,私たちはそれについて化学的に研究し,茶葉の生体防御機構を,機能性食品などに応用したいと考えています。最近は,エピガロカテキンガレートとテアフラビンを50%程度含有するノンカフェイン緑茶抽出物の,クロマトを使わない簡易製造法を開発しました。


<研究室での実験例>

 純粋分離した緑茶のカテキン2種(epigallocatechinとepicatechin)を混合して、新鮮な茶葉の絞り汁(あらかじめカテキン類を除いたもの)で処理すると、酵素の働きで酸化反応が起こり、紅茶の赤い色素テアフラビン(theaflavin)ができます。私達の研究室では、さらに反応を進めるとテアフラビンが酸化されて新しい色素テアナフトキノン(theanaphthoquinone)などになり、これらが複雑に反応してカテキン4量体などが生成していることを明らかにすることに成功しました。下に示すのは、その反応機構を推測したものです。
 紅茶色素は大きくテアフラビンとテアルビジンの二つのグループに分類され、テアルビジンの方が量も多く、水にも溶けやすいので、紅茶の色のかなりの部分はテアルビジンによるとされています。しかし、テアフラビンに比べ、テアルビジンについては化学的にほとんど分かっていません。このテアルビジンの構造解明も、私たちの研究目的の一つです。


カテキン酸化における化学構造変化のイメージ


<家庭で出来る実験例>

1.普通に煎じた緑茶を底の白い湯のみなどに入れて冷ます。(緑茶・ほうじ茶なら何でもよい。緑茶の黄色はフラボノール類の色)
2.ビワ,リンゴ,ナシ等を食べたあとに残った芯や皮,バナナのスライスなどを入れてしばらく待つ。
3.黄色い緑茶が赤くなってきます。

緑茶のカテキン(無色)が果物の酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)で酸化され,紅茶色素テアフラビンが出来ます。高速液体クロマトグラフィーによる生成色素の分析結果はこちら(PDF File)をご覧ください。このテアフラビンには虫歯抑制作用や抗菌作用などがあるとされています。(これらの作用は緑茶のポリフェノールにもありますが,テアフラビンの方が効果が高いとされています。)
他にどんな植物で色が変わるでしょうか。植物自体の色が濃いと分りにくいのですが,私たちが純粋なカテキン類を使って実験したところ,ブルーベリー,ナス,ウメ,ブドウなどでもテアフラビンが出来ることを確認しています。他にも面白いものが見つかったら是非知らせてください。



どうして赤く見えるのかについてはこちらのページ(PDF File)をご覧ください。


<これまでに明らかになっているカテキン酸化経路>

私たちはこれまでに、独自の手法を駆使して研究を行うことにより、下の図に示すような、非常に複雑なカテキン酸化経路を明らかにしています。現在も紅茶ポリフェノールの全体像の化学的解明を目指して研究を推し進めています。



図をクリックすると拡大表示されます

■紅茶ポリフェノール成分について詳しく知りたい方は、以下の文献(総説、講演要旨)をご参照下さい

田中 隆、植物ポリフェノールに関する化学的研究とその紅茶色素生成機構解明への展開、薬学雑誌128, 1119-1131 (2008).
[DOI] [CiNii] [NAOSITE]
松尾洋介, 李 岩, 渡海明郁, 田中 隆, 河野 功, 紅茶色素形成に関わるエピガロカテキン由来ビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を持つ鍵中間体の生成分解機構, 第49回天然有機化合物討論会 (2007年9月、札幌) [講演要旨]
松尾洋介、李岩、田中隆、河野功、紅茶ポリフェノールの生成機構〜カテキン酸化カスケード〜、第47回天然有機化合物討論会 (2005年10月、徳島).[講演要旨]
Tanaka, T.; Kouno, I. Oxidation of Tea Catechins: Chemical Structures and Reaction Mechanism. Food Sci. Technol. Res., 9, 128-133 (2003). [DOI]
田中 隆, 緑茶カテキンの酸化と紅茶色素の生成, 化学と生物, 40, 513-518 (2002).[Journal@rchive]


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