グルタチオンペルオキシダーゼ様活性を有するナノベシクルの創製

代表的なセレンタンパク質の一つであるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)は,生体内で生じた過酸化物を消去するという重要な機能を担っています。ヒトのセレン含有GPxには1-4および6の5種類のサブタイプが存在し,それぞれ生体内での発現部位や基質特異性が異なります。このうちGPx4は脂質過酸化物の還元を行う重要な酵素であり,GPx4を欠損させたマウスでは胚性致死に至ることが報告されています。これまでにGPxの反応機構の検討や医薬への応用を目的として,種々のGPx擬似体の合成が検討されてきました。GPxの活性中心であるセレノシステイン(SeCys)は通常は終始コドンとして機能するUGAによりコードされているため,生物工学的手法で合成することが困難です。いくつかの低分子セレン化合物がGPx擬似体として合成されてきましたが,非常に水溶性が低く,生理的条件でのGPx様活性の発現には課題がありました。当研究室では多糖やタンパク質などの親水性の高分子にSeCys誘導体を結合させ,水溶液中でもGPx様活性を発現するGPx擬似体の合成を行ってきました。最近では,1本もしくは2本の長鎖アルキルを有するSeCys誘導体を合成し,リン脂質と混合してリポソームに導入したナノベシクル型GPx擬似体の創製を試みています。これらのSeCys誘導体含有リポソームは水溶液中でGPx様活性を示すことを報告しており,脂質二分子膜がGPx活性を発現する反応場となりうることがわかりました。





<代表論文>

Uehara W., Yoshida S., Emaya Y., Fuchigami T., Haratake M., Nakayama M., Selenoprotein L-inspired Nano-vesicular Peroxidase Mimics based on amphiphilic diselenides. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces. 162, 172-178 (2018)

Haratake M., Tachibana Y., Emaya Y., Yoshida S., Fuchigami T., Nakayama M., Synthesis of Nanovesicular Glutathione Peroxidase Mimics with a Selenenylsulfide-Bearing Lipid. ACS OMEGA. 1, 58-65 (2016)