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公開シンポジウム-日本生物学的精神医学会合同企画シンポジウム-
「神経ステロイド−その脳機能調節作用と分子基盤」の概要

植田弘師

 本シンポジウムは、最近注目を集めている神経系で産生されるステロイド類いわゆる神経ステロイドの生合成と作用機構について、最新の興味ある話題を提供することを意図して山脇(広島大・医)と植田(長崎大・薬)が企画したものである。まず、鍋島ら(名大院・医)は、不安神経症やストレス疾患動物モデルであるマウスの強制水泳試験法を用いて、抗ストレス作用を示すシグマ受容体リガンドとしての神経ステロイドの作用について紹介した。次に、名和田(九大院・医)は、神経ステロイドであるDHEASの生体調節機構について、これまでに詳しく解析されている末梢臓器における生合成機構を加齢に伴う変化とコルチゾルとの関連から説明した。川戸(東大院・総合文化)は、脳内のステロイドホルモン合成経路に関わる酵素群の発現とその調節、及び、神経ステロイドのNMDA受容体に関わる急性作用について述べた。また、吉田ら(長崎大・薬)は、神経ステロイド受容体としてのG蛋白質連関型シグマ受容体の存在について、生化学的及び行動薬理学的な研究結果を発表した。最後に、三國(群馬大・医)は臨床的な立場から、うつ病患者における神経ステロイド生合成系に対する抗うつ薬の関与や、がん患者などにおける心理的ストレスとうつ病、不安といった症状との関連について概説した。この中のいくつかの話題と神経ステロイド研究の現状についてについて取り上げてみたい。 
 まず、神経系でのステロイドホルモン類の合成については、これまで合成経路に関わるいくつかの酵素群が成体脳において、その存在が確認されていないという問題点があった。今回、哺乳動物の成体海馬錐体細胞層に一群のステロイドホルモン合成酵素が存在することが免疫組織化学的に示された。なかでも、P450アロマターゼまでもが存在し、エストラジオールが脳で生合成されているのではないかという報告が注目される。これまでに確認できなかった原因として、用いた抗体の差異が指摘されてた。また、脳内でのステロイドホルモン生合成は、一つの細胞ではなく複数の異なる細胞が、生合成のそれぞれ異なる部分を担当していることも示唆された。このような分業制が敷かれているのであれば、各細胞の役割分担とそれぞれの中間代謝物の作用点との関連を明らかにすることが、今後の重要な課題と考えられる。一方、マウスの強制水泳時に脳内で神経ステロイドのallopregnanolon量が上昇し、その上昇は血中での上昇より早くまた大きな変化であった。このことは強制水泳により脳内での合成系が調節されていることを伺わせる。また、培養神経細胞の実験から、NMDA刺激、細胞内カルシウム濃度上昇を経て、ステロイド合成の調節因子であるStARを介するプレグネノロン産生促進機構が報告された。
 脳で作られる神経ステロイドの作用点としては、これまでに核内受容体以外に、細胞膜受容体として、GABAA受容体、NMDA受容体、シグマ受容体などが報告されているが、本シンポジウムでは、特にNMDA受容体及びシグマ受容体に関する最新の知見が発表された。
 NMDA受容体に対する作用としては、DHEA、エストラジオール、コルチコステロンなどによるアロステリックな増強作用が見られた。特に興味深いのは、これまで報告されていないエストラジオールの作用で、プレグネノロンの1万倍の作用を示し、脳での産生量が少なく微量であったとしても無視できないのではないだろうか。その作用機序の仮説としては、NMDA受容体以外の細胞膜受容体に作用し、srcによるリン酸化を介するNMDA受容体活性化の可能性が述べられたが、今後の検証が注目される。
 一方、シグマ受容体を介する作用としては、動物行動薬理学的な解析から、DHEASやPREGSがシグマ1アゴニストとして、また、プロゲステロンが同アンタゴニストとして作用し、さらに、シグマ1受容体の中でもフェニトイン感受性のサブタイプに対して作用するのではないかと考えられた。まだシグマ受容体については不明な点が多いが、神経ステロイドの作用するシグマ受容体がG蛋白質連関型の受容体であることが示唆された。特に再構成実験の結果から、この受容体はGiと連関しGoとは連関しないものであることが示された。このG蛋白質連関型受容体を介する神経ステロイドの作用は、in vivoでの末梢性疼痛試験法によっても確認され、核内受容体では説明できない神経ステロイドの急性作用が個体レベルでも確認された。更に興味深いこととして、この神経ステロイドの急性作用が、内分泌撹乱物質によって抑制された点がある。神経ステロイドあるいはシグマ化合物は、ストレスや情動行動に影響することが知られており、内分泌撹乱物質の精神機能に影響する作用点であるかも知れない。また別に、内分泌撹乱物質と神経ステロイドとの関連として、海馬神経細胞での実験で、EPSPに対しエストラジオールと同様にビスフェノールが増強作用を示すことが発表された。今後、内分泌撹乱物質の脳機能に及ぼす影響として、これらの細胞膜に存在する神経ステロイド受容体を介する作用が非常に注目される。