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Last updated 03/27/12

  1. 肝臓表面からの吸収を利用した薬物ターゲティング
  2. 遺伝子治療実現に向けた遺伝子デリバリー研究
  3. 薬物療法の個別化 (病態時・各種治療時)
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薬剤学とは
 薬剤学、いわゆるクスリの学問は、クスリに関する様々な分野の研究領域も包括する場合もある。一般的には、薬剤学は、医薬品を実際に生体に適用する場合に考慮すべき情報をカバーする。したがって、薬剤学は、他学部にはない薬学独自の学問領域である。薬剤学を大まかに分類すると、物理薬剤学、生物薬剤学、医療薬剤学に分類される。
  • 物理薬剤学: 薬剤の物理化学的性質を調べ、最適の処方、剤形を工夫
  • 生物薬剤学: 生体に適用した場合の薬剤の運命を調べ、最適な薬効が得られる条件を検討
  • 医療薬剤学: 臨床における薬剤投与設計を最適化し、薬物相互作用などについて検討

研究の概要
 
 長崎大学薬学部 薬剤学研究室では、体内の特定の臓器や病巣などの部位に、薬を選択的かつ持続的に運ぶ研究を行っています。そのためには、薬の体内における挙動を把握する必要があり、様々な角度から解析しています。特にユニークなのは臓器表面投与法で、分子量数百万の遺伝子医薬品も肝臓などの表面から吸収されることを明らかにしました。

ドラッグデリバリーシステムの開発 Drug delivery system
 最近の創薬技術の進歩は目覚ましいものがある。構造活性相関などの多様な情報に基づいて、コンピュータを駆使してクスリの候補化合物群を探索し、コンビナトリアルケミストリーの技術で短期間に合成することが可能となった。有用な生物活性を持つ化合物を見いだすために、スクリーニングロボットが用いられるようになった。
 さらに、ヒトの遺伝子情報を解読するヒトゲノム解析計画がほぼ完了し、DNAマイクロアレイ技術により、疾患に関与する遺伝子が同定され、個々の患者に対して、適切なクスリを最適な量だけ投与して治療するテーラーメイド医療の実現が期待されている。こうした遺伝情報を出発点とする新しい方法論、技術に基づく治療法は、難治性疾患の癌、エイズ、アルツハイマー症などの疾患の克服を可能とし、医療の本質を大きく転換させるものと期待されている。一方、臓器レベルでの疾患治療法として、臓器移植、培養組織移植、人工臓器を用いた臓器置換など種々の技術が開発されている。
 クスリは体内に吸収され、様々な部位に分布し、一部は代謝され、最終的に体外へと排泄される。このようなクスリの体内での動きは、薬効や毒性と密接な関係にある。しかし、強力な薬理効果を有するものの、生体内への吸収率が低く、速やかに分解を受けるクスリも多いのが現状である。また、抗癌薬と抗ウイルス薬との併用で多くの死者を出したソリブジン事件、血友病患者への投与でHIV感染を引き起こした非加熱血液製剤に代表される重篤な相互作用や副作用を招く例も後を絶たず、慎重なクスリの投与が求められている。そこで、クスリの吸収、分布、代謝、排泄過程を速度論的に解析し、クスリの生体内での動きを精密にコントロールするドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる新しいクスリの投与形態が誕生した。
 DDSは、宅配便が個人宅に荷物を指定時間に届けるように、クスリを指示通り正確に、適切な時間に必要量だけ、生体内の作用点に送り届ける運搬システム「クスリの宅配便」に例えられる。マイクロカプセルを利用したコントロールドリリース製剤、吸収改善を目指したプロドラッグなどが実用化されている。一方、内視鏡や超音波診断装置などの高度な医療技術を応用し、生体内の様々な部位へクスリを投与することが可能となっている。
 そこで我々は、癌などの病巣部局所へクスリを選択的に送達するDDSを確立するために、薬剤の投与経路や投与方法の工夫に着目し、肝臓などの腹腔内臓器表面からの吸収を利用した、クスリの新規投与形態を開発している。さらに、生体内の特異的な取り込み機構に着目した新しい遺伝子DDS製剤を作製し、本投与方法への応用を推進している。
   

1.腹腔内の肝臓表面からの吸収を利用した薬物ターゲティング
 肝臓は生体の恒常性維持に重要な役割を果たしており、肝疾患には生命を左右するような重篤なものが多く、新規投与形態の開発が強く望まれている。静脈などの血管系を介した薬物送達方法においては、標的臓器以外への薬物分布のために、薬効の低下や副作用が避けられない。この問題を解決するための有効な手段として、病巣部局所への直接投与が考えられる。例えば、臓器表面から薬物が良好に吸収された場合、薬物が臓器中の病巣部位近傍に滞留する可能性は極めて高いと予想される(図)。しかしながら、臨床においては、経口投与や静脈内投与が主流であり、臓器表面からの薬物吸収に関する報告例は見当たらない
 そこで我々は、肝臓局所への薬物の集積性改善を最終的な目的として、有機アニオン系色素や分子量の異なるデキストラン類をモデル薬物として選択し、新たに薬物吸収を肝臓表面に限定できる拡散セルを作製し(図)、肝臓表面からの薬物吸収のメカニズムの解明を行った。物性の異なる各種モデル化合物が、肝臓表面から吸収され、臓器表面投与により薬物が投与部位近傍に高濃度で分布し、薬物の物性に基づいて肝臓表面からの吸収性を予測できる可能性を示した。
 次の段階として、新規投与形態の臨床応用へ向けて、薬物の肝臓表面からの吸収性や局所滞留性に及ぼす、投与薬液の容量や適用面積、粘性添加物などの影響を明らかにした。これらの製剤学的因子を適宜調節し、継続的な微量注入、薬物の高分子化修飾等による肝指向性増強の手法と組み合わせ、空間的・時間的に理想的な肝臓内薬物分布が得られる肝臓表面適用製剤の至適条件を考察している。また、ゲノム製剤や抗癌薬に対する本投与法の適用において、実用化のための基盤構築を展開している。
   

2.遺伝子治療実現に向けた遺伝子デリバリー研究
 先天性遺伝子欠損症、癌など難治性疾患に対して遺伝子医薬品の開発が強く望まれているものの、効果と安全性の両面を満たす遺伝子導入法は少ないのが現状である。これまでに我々は、新規投与経路として肝臓、胃など腹腔内臓器表面に直接、非ウイルスベクターであるプラスミドDNAを滴下することで、安全に遺伝子導入可能であることを報告している。さらに、プラスミドDNAによる遺伝子導入のメカニズムとして、Rac介在性シグナル伝達経路の活性化により起こるマクロピノサイトーシスが重要であることを明らかにした。このことは、マクロピノサイトーシスの活性化剤の併用により遺伝子導入効率を改善できる可能性を示しているものと思われ、現在、遺伝子導入効率を改善できる物質の探索を行い、安全性を保ちながら効率的な遺伝子導入法を開発しつつある。
 一方、遺伝子医薬品の血管内投与時においては、ベクターと血液成分との相互作用が問題となる。これまでに非ウイルス性ベクターについて解析を行い、血液成分との相互作用が及ぼす影響について明らかにしつつある。こうして得られた情報を基に、安全かつ効率的な新規ベクターの設計を行い、現在、開発を行っている。

3.薬物療法の個別化 (病態時・各種治療時)
 体に投与された薬は、体内に吸収され、様々な部位に分布し、一部は代謝され、最終的に体外へ排泄される。また、薬が体に有益な効果を発揮するには、最適な濃度範囲(治療域)があり(図)、治療域に達しない場合は効果を示さず(無効)、逆に治療域より高い濃度では、薬は体にとって毒になり、副作用の原因となる。しかし、患者の病気や併用薬などの影響で、薬の動きは変化しやすいために、重篤な薬物相互作用や副作用を招く例も後を絶たず、薬物療法の個別化が望まれている。 
 そこで我々は、病態時(肝・腎疾患、腹膜障害)や各種治療時(低体温療法、ハイパーサーミア療法)における薬物の体内動態変動を薬物速度論的に解析し、最適な投与計画の立案を行うための検討や、病態時における薬物動態特性の違いを利用した診断薬の開発などを行っている。