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マクロファージ系細胞の炎症誘導性細胞死の機構

 炎症は生体防御機構として生体の恒常性維持に必須の役割を担っていますが、いったんその制御が失われると重篤な急性症状やさまざまな慢性疾患の発症につながるため、炎症の制御機構の解明はさまざまな疾患克服に向けての大きな課題です。

 炎症の初期においては、マクロファージや樹状細胞などが炎症の引き金となる刺激に直接応答し、インターロイキン-1β(IL-1β)などのサイトカインを放出することで炎症が惹起されます。その際IL-1βは、通常の分泌タンパク質が有するシグナル配列を持たないにもかかわらず細胞外に放出されるため、細胞死がIL-1βの主要な放出機構と考えられており、その細胞死は、炎症を積極的に惹起する「炎症誘導性細胞死」と位置づけられています。IL-1βの成熟化に働くプロテアーゼcaspase-1の活性化にともなって誘導されるパイロトーシス(pyroptosis)がすでに知られている代表的な炎症誘導性細胞死ですが、パイロトーシスについてもその誘導機構や制御機構にはいまだ不明な点が多く、さらに他にも機構の異なる細胞死が存在する可能性が残されています。

 私たちは、インフラマソーム活性化刺激によるマクロファージからのIL-1βの放出を抑制する低分子化合物を探索したところ、得られた化合物のすべてが、IL-1β放出と同時に起こるマクロファージの細胞死を強く抑制することを見出しました。それらのうちSTAT3阻害剤WP1066は、STAT3に対する阻害作用とは独立してインフラマソーム活性化刺激によるマクロファージの細胞死を強く抑制することが分かりました(発表論文1)。よって、WP1066の新規の標的分子が、マクロファージからのIL-1βの放出を促す炎症誘導性細胞死の制御因子の一つと予想されます。現在私たちは、WP1066やそれ以外の細胞死抑制化合物の標的分子の同定を含めた細胞死抑制機構の解析を進めており、マクロファージの炎症誘導性細胞死の機構を明らかにすることで、炎症という生体応答を誘導する細胞死の意義を解き明かしたいと考えています。


 なおこの研究は、新学術領域研究 ダイイングコード 〜細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明〜 からサポートしていただいています。


発表論文

1. Honda S, Sadatomi D, Yamamura Y, Nakashioya K, Tanimura S, Takeda K
WP1066 suppresses macrophage cell death induced by inflammasome agonists independently of its inhibitory effect on STAT3.
Cancer Sci 108, 520-527 (2017)



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