第2の人生の勤務先と私

鈴田 啓二(昭29)

 平成3年9月定年退職時,藤沢薬品の幹部の一人が新しく勤める「アルコス」について尋ねたので,新しくスタートする薬専卸で,近い内に大阪へも名前が知られるようになるでしょうと大見得を切ったがその実,不安だった。それ迄医療用と一般用の両方を扱う総合卸の殆どがヘルスケア部門の赤字に悩んでいたからである。しかし,現在では「アルコス方式」(同一ブロックにおいて複数の卸がヘルスケア部門の効率化を目的に,各社の同部門を分離独立させヘルスケア専門会社を設立すること)として認知された。今その動きは九州から長野地区・3社の統合(H1O.10.1スタート,鍋林・岡野薬品と福神長野営業所の薬粧部門),東北地区・6社(H11.2.1,エーシン・小田島・石舘商事・管野商会・シヨエー),中国地区・5社(H11.10.1,サンキ・成和産業・セイナス・オムエルと,小林製薬の広島営業所)と拡大していっている。平成10年4月13日のドラッグ・トピックスによると「九州卸に“先見の明”」との表題で「平成3年発足時年商240億円,沖縄を除く九州全域に営業エリアを持つアルコス(武田系のユニック,三共系の九薬,田辺系の吉井の薬専部門を本体から切り離し一緒になる)の試みが果たして成功するのかどうかは九州内に止どまらず,全国の卸関係者の注目の的だといっても過言ではなかった。そしてこの試みは見事に成功する。平成9年3月期決算売上高301億円,経常利益5.2億円。ヘルスケア卸としては高く評価される数字なのだ」と。私は「アルコス」のスタート時から長崎支店の管理薬剤師として今日まで係わってきた。スタート時,台風によりコンピュータがストップして大恐慌をきたしたこと。種々の障害を乗り越え,効率化の追求に朝早くから夜遅く迄必死に頑張る社員の方々を見ていて頭の下がる思いだった。平成3年9月20日で藤沢薬品での第一の人生が終了,10月1日より「アルコス」長崎支店の管理薬剤師として働くことになり,早々に帰郷,友人の計らいで家を購入,職場は家から歩いて10分程のところである。幸い長男も長崎県庁に勤めて現在諌早にいる。帰郷早々NHK恒例の「第3回秋季列島縦断市民参加俳句大会」に参加して,図らずも
  “母逝きて今父病めり鵙高音”
  “天高く昂りもなく卑下もなし”
の2句が入賞した。平成4年3月29日長崎市民文化ホールでの市民能楽五流会に出て観世流の「西行桜」のワキを披露出来た。父の看病も1年半ではあったがすることができたし,今は寺の檀家総代も務めさせて貰っている。孫も7人と恵まれ,夫婦ともに健康である。会社にあっては温な人達に囲まれ,これまで仕事を続けることが出来た。まだ夫婦揃って外国旅行に行っていないが,私自身はそのことに魅力を感じていない。出かけるなら国内で沢山行きたいところが残っている。それよりも毎日気持ちよく仕事が出来る第2の人世は,私にとってなんとも幸福な日々であり,そのことに心から感謝している今日この頃なのだ。

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